小町の見る空


小町は寝転がり空を見上げた・・・ 青く、蒼い空にゆっくりと雲が流れて行く。 それはありふれた光景で、小町が最も好きな風景。 しかしこの風景を眺めているのはいつも長く続かない。 「小町!またサボって昼寝ですか!」 ほらね。 / 仕事が終わった後、酒を買いに人里へ来た。 お気に入りの酒を買い、つまみも仕入れる。 通りを歩いていると、通夜の火が灯った。 「・・・」 明日はあの人を運ぶ事になるのかねぇ。 そんな事が頭によぎる。 毎日の仕事とはいえ慣れる事は無いだろう。 でも自分はまだいい。 客を乗せて運べばそれで事は終わる。 でも、あの人は違う。 私が運んだ者を裁かなければならない。 ある時聞いてみた事がある。 「人を裁くと映姫さまも傷つきませんか?」 「・・・傷つきます。でもいいのです。それは私の宿命ですから」 少し寂しそうに笑った。 / 夕方の川原、いつもの土手に陣取り、先ほど買った酒を開ける。 夕焼けの赤い空。 流れゆく白い雲。 ふっと心が溶かされる瞬間。 「良い物呑んでいますね」 「お猪口も2つありますよ」 「良い心がけです」 小町の横にぽすっと腰掛ける。 さぁっ・・・っと風が流れた。 ふわりと草の匂いが舞う。 そんな中二人は盃を交わす。 小町は横目に映姫を見遣る。 「この人、本当は強くないのに・・・それでも四季映姫として強く在るんだな・・・」 空を見上げ、ゆっくりと酒を楽しむ横顔に今日負った心の傷を見た気がした。 そっとつまみを差し出した。 無言で一口放り込み、お猪口を空ける。 「ふぅ・・・」 小さく息を吐き出す。 「ご馳走様、小町。深酒して明日に響かないように頼みますよ」 そう言ってふわりと舞い上がった。 「・・・」 夕闇が迫り、風が少し涼しく感じた。 「明日ね・・・」 ぐいっと一気に盃を煽った。 「空でも眺めながら過ごしますよ・・・」 / 翌日 小町は寝転がり空を見上げた・・・ 青く、蒼い空にゆっくりと雲が流れて行く。 それはありふれた光景で、小町が最も好きな風景。 しかしこの風景を眺めているのはいつも長く続かない。 「小町!またサボって昼寝ですか!」 ほらね。 後書き 紅楼夢5で発行した合同誌「ら〜じせっと!」に収録した物です。 ■戻ります!